ヨッシーアイランドの解釈の一例

一章

5

暗闇の中に揺らめく、蠟燭のかすかな炎二つ。其の動きに合わせて、重厚な石造りの壁と床とに落とされた、一つの人影が揺れる。呪文の様な声が、低く闇の中を流れている。

奥行き・幅は共に五歩ぐらい。天井は低く、二人でもれば窮屈に感ずる様な狭い部屋である。窓は無く、暗さの為か出入り口も見えない。

壁の一つに面して、腰程の高さの祭壇の様な物が設置され、蠟燭立ては其の上面の左右の端に置かれている。二つの蠟燭の間では、無造作に並べられた、金属製の細々こまごまとした器具類が炎に照らされて黄金色に輝き,中央には弱く白く発光する水晶玉が鎮座する。人影は、椅子に坐って其の玉に手をかざしていた。

「ああ、見つからない」

首を左右に振りながら椅子に身を沈め、溜め息を吐く。男の声だが、高い。暗い色のローブに,上に立った尖り帽子,円眼鏡を掛けている。目立つのは、亀の様な形をした尖った口。

「早く捜し出して、捕まえちゃわないと…コウノトリよりも先に」

身を起こし、翳した手をゆっくり動かし乍ら、口の中で再び呪文を唱え始める。

其の時、男の背後の真っ暗な壁の、向こう側から声が聞こえた。

「カメック様ー、棟梁ヘイホーです。すみません、そろそろこの辺りも造り始めますんで、」

突然、壁の中央が縦に裂ける。一瞬にして、光の筋が部屋全体を明るく照らした。

「あっ、またロウソク立てて! 火事になるからやめて下さいと…」

全身をだぶだぶの赤い服で包み、白い仮面を被った、極めて背の低い人物が立っていた。而しカメックと呼ばれた男は気付かないらしく、相変わらず水晶玉を見詰めてまじないを唱えている。棟梁ヘイホーは一層声に力を込めて部屋の中に呼び掛けた。

「カメック様っ、テントを移動して下さい!」

と突如、天井がビリビリと音を立てて裂け、太い角材が数本なだれ落ちて来た。カメックは頭に其の直撃を受け、悲鳴と共に祭壇の上の物を突き崩して突っ伏した。石の壁が,天井が、布の様にひしゃげて潰れて行く。

「うわぁカメック様っ! コラ、基礎を作る前に柱を立てる奴ぐおッ」と上へ怒鳴ったヘイホーの頭にも小さい角材が命中、乾いた土と砂との地面に倒れ込んだ。半壊した白いテントの周りに土埃が舞い上がる。

「あ…んぜん、第一だ、ぞ…。」

「あー、すぃあせーん。」

既に周囲に組まれ始めていた梁の上から、ノコノコの気の抜けた声が聞こえた。

「何なの、一体…」

暫くして、一度組まれた柱が忽ち解体された後、カメックが這う様にしてシートの切れ目から顔を出した。

「あら、木造なの?」

「…はい、この一帯は。今テントが建っていた辺りは茶室になります。」

起き上がった棟梁ヘイホーが、痛そうに頭をさする。

「茶室ねぇ…。」

其のそばに、翼を持った赤甲羅のパタパタが、急いだ様子で降り立った。

「カメック様! 居場所が判明しました!」

「何!? よくやったわ!」

其れを聞くや否やガバッと起き上がったカメックは、再びテントの中に潜ると、直ぐ竹箒を片手に持って現れた。

「案内なさい。待ってなさいよ、マリオちゃん!」

箒に跨がったカメックは、地を蹴って勢い良く曇り空に飛び上がった。パタパタはばたいて後を追った。