ヨッシーアイランドの解釈の一例

一章

4

昼時。ヨッシーたちは川原の一角に緩やかに集まって、何とは無く喋っていた。赤ちゃんはさすがに疲れたのか、間も無く眠り込んで終い、ヨッシーたちの居る辺りを少し外れた木陰に、横になっていた。

青色だけは、相変わらず少し離れた位置で卵投げの練習をしている。ヨッシーたちの後ろから、卵が風を切って飛ぶ音や,其れが木の幹に当たって跳ね返る乾いた音が、時々割り込んで来る。

「やっぱり赤ちゃんは赤ちゃんだね。」

寝ている赤ちゃんの様子を見遣って、茶色が笑った。

「寝顔はかわいいんだけどねぇ。」

桃色は溜め息。

「青さぁ、人間の赤んぼってみんなこんなモンなの?」

赤は後ろに手を突いて、卵を手に持たずに遠くの木に狙いを定めている青を呼んだ。卵投げの標的としている木の幹は、川原の此の辺りを縦断した上流側、駆けて行けば二十秒程の所だろうか。

「そいつが特異なんじゃねえかと思う。」

赤には一瞥を呉れるだけで、動きを止めない青。投げる時の姿勢を何度か真似ている。

「ふーん…」

「なんかさ、」

桃色が割り込む様に言った。

「赤ちゃんが来てからどこも行ってないよね。なんか動きづらくて。」

「確かに。オレ海行きてぇ」

赤の其の言葉に、緑などが口々に賛同する。

青はふと動きを止めた。

「海か…復た森を南に下った辺りか?」

「そーそー、あっちが一番近いよな? 数日で着ける」

青は、物をちょっと考える様に、ふうっと息を吐き出した。

「……其れも良いな。」

然う呟き乍ら、足許の袋から卵を一個取り出し、再び遠くの木の幹を睨んだ。一瞬の間。視線を保った儘卵を弓の様に後ろへ引き、一歩踏み出し、勢い良く投げ――ようとしてよろめいた。

「何で赤ん坊があんなトコに行ってんだ」

他のヨッシーたちに言い捨てつつ、卵を足下に抛り捨てつつ、今の今迄狙いにしていた木の方へ駆け出す青。見れば、遥か向こうの木々の挟間の低い枝に、赤ちゃんがしがみ付いていた。

「うーん、一瞬も目を離せないなぁ。」

青の背中を眺めて、茶色が呟いた。外のヨッシーたちも其の青をぼーっと眺めていた。


青が戻って来た。其の両腕の中には赤ちゃんがちんまりと乗っかっていた。

「此奴はとに斯く動いていたくて堪らないらしいな。此の好奇心には負ける。」

飽く迄も無表情の儘、緑たちの近くへ来て、腰を下ろした。赤ちゃんは青の腕から這い出て、ヨッシーたちの真ん中、緑の前辺りに這って来た。

其の直後、赤ちゃんは針に突かれた様に、目を円くしてぴくりと震えた。

不審な様子に思わず固まってしまったヨッシーたちが、言葉を継ごうとした時。赤ちゃんは何かに引っ張られる様に右腕を上げ、一方向を、あっち、と指指した。

「――あっち?」

其の先を辿ると、

「…ぼく?」

水色が居た。而しふるふると首を振る赤ちゃん。じゃあ、その先にあるのは…

「木の実?」

やはり首を振る。それなら、

「森?」

其れでも首を振る。

「…それじゃあ――」

緑は、赤ちゃんを抱いて立ち上がった。其の指の先、森のずっと向こうに、もう一つの選択肢が立ち現れた。

「――山?」

頷いた。何か言いた気な目で。

「山がどうしたの?」

赤ちゃんは答えない。唯、緑をじっと視る。

「山に、行きたいの?」

桃色も立ち上がった。赤ちゃんは其ちらに向いて再び、こくこくと頷いた。

「そうか、山か……」

赤が立ち上がり、山を仰いだ。

「ちょうどここにも飽きてきた所だ。」

すると、茶色も立った。

「一度くらい行ってみたかったんだ、山の近くへ。」

青が続く。

「久々に、内地に顔を見せるのも良い。」

黄色も、目を輝かせる。

「いろんな所で、いろんなもの食べられるんならいいなー。」

紫が、稀な笑みを浮かべた。

「一所に留まる莫く流れ暮らす、ヨッシーの本来よ。」

山に対して、立ち並ぶヨッシーたち。一筋に纏まった意識の矢が、一方向へ真っ直ぐに通じていた。

「……寒い山はやだなぁ、ここ良い気候で気に入ってるのに…。何か多数決で既に決まっちゃってるけど」

水色も渋々、立ち上がった。


緑が咳払いをした。

「――さて、劇的な演出はいいとして、いつ出発しようか。」

茶色が、高く昇った太陽を仰いだ。

「明日だろうね。早い方が良いけど、今日はもう昼過ぎだから。」

「オレは今日でもいいけどな。もう出発したくてうずうずしてる。」

赤が笑った。

其の後、持って行く荷物に話が移ったが、普段から使って纏めている物を袋に入れて持って行けば良いと云う事で簡単に決まった。鍋が若干嵩張るけれど、やはり食べる事の好きなヨッシーたちに取ってはかせない物なのである。

其れから夜になる迄、ヨッシーたちは、明日からの旅で出逢うべき人々・風景・気候・食材や,近所の住人に挨拶をして行く事,此の世に生きる喜びそして悲しみの事などを、気儘に語り合った。緑・青・茶色などの少なからぬヨッシーが、『なぜ赤ちゃんが山に行こうとするのか』を考えたのだが、浮かれた雰囲気に押されて此の場では話が進まなかった。


夜。今晩を最後に少なくとも暫くは御別れとなる此の寝床で、ヨッシーたちは眠りに就いていた。今朝の反省を踏まえて、勝手に動かない様に赤ちゃんによく言い聞かせた上で、今日は緑が付き添って寝ている。

今夜は月が無く、辺りは墨を塗った様に真っ暗である。更に、風も吹かず,音も声も全く聞こえず、生き物の気配は殆ど感ぜられない。

其の木々の間を、小さな茶色の蛾が一羽、飛んで行った。


突如、赤ちゃんが激しく喚いた。ヨッシーたちは跳び起きた。

「今度は何だよ!」

「ちょっ、緑どうした!」

「赤ちゃんどこ!?」

突然の事で一層周りが見えず、慌てるヨッシーたち。

「誰だっ」

緑が舌を繰り出す。自分の直ぐ隣で、寝ていた赤ちゃんを拾い上げようとしている人影に向かって。而し紙一重でかわされる。

「待て、何者だ」

青が、手に触れた靴を力一杯投げ付けた。靴は硬い物に当たって、転がった。影は茂みの中に飛び込んだ。

茂みを突っ切って走る音は、あっと言う間に遠ざかって行った。赤ちゃんの泣き声が近くに在る事が一先ずの安心だった。


緑が、泣き続ける赤ちゃんを両腕に抱いた。赤ちゃんは間も無く静かになった。

桃色が不安気に言った。

「何だったんだろ」

青は靴を回収しに立ち上がる。

「奴はかなり小さかった。俺らの半分も無い。俺に判ったのは其れだけだ。」

桃色が坐り直そうとすると、手が硬い物に当たった。拾い上げて見ると、周りのヨッシーたちが覗き込む。

軽くて白い仮面だった。目に該る二箇所と口の部分に穴がくり抜かれただけの、単純な作り。正円に近い楕円形で,球面になっていて,左右の端の金具から革らしき帯が出ている。片方の帯はちぎれていた。

「靴が当たって落としたんだな。」

青は茶色から靴を受け取り、自分の寝床へ戻った。

「誰だったのかは分からないけど、」

眠って終った赤ちゃんの頭を撫でて、緑が口を開いた。

「確かなのは、この赤ちゃんが狙われたこと――」